○サラ
主人公。本名はフィエーラ。奴隷の身分からテュロスの娼窟に買われた少女。実はトラキア族の頭の娘だったが、幼い頃の戦争で家を焼かれ、家族を失い、記憶までも喪失していた。
元は名家の娘とは言え、一度は奴隷身分に貶められて一般庶民となっていたサラ。その彼女が、リュシアスとの出会いをキッカケに、過酷な運命の主人公へと変貌を遂げていきます。
このサラがモテるモテる――これってネオロマ!?ってくらいに。でも、ネオロマと違ってサラの人生は波瀾万丈。薬物に侵されるわ、ズタボロに傷つけられるわ、命は狙われるわ――と、同情せずにはいられない悲劇的な目に遭わされます。しかし、どのような逆境にも負けないのがサラの強さ。相手がたとえマケドニアの王子(誰とは言わないが)であろうと平気で罵るし、自分の感情には嘘をつかない。そういうサラの天真爛漫さや慈悲の心に、誰もが惹かれます。
後にサラは、リュシアスの子を生みます(その名もリュシィ)。ハミルのことを愛しているくせに、何故他の人の子を生むんだ!?――と、以前は疑問に思ったものですが、今になって理解できる気がします。
ハミルのことは好きだし、リュシアスのことも好き。でも、ハミルへの想いとリュシアスへの想いは、同じ好きでも性質の異なるもの。恐らくサラは、リュシアスに父もしくは兄の面影を求めていたのでしょう。幼い頃戦争に巻き込まれて娼窟に売られたサラには、家族がいません。サラは、自分の力で生きていかなければいけなかったわけで、気丈に振舞っていたのですが、それでも親の愛や庇護を、心の何処かで求めていた。そしてひょんなことで知り合ったリュシアスに、救いを求めます。
リュシアス自身も、サラの不思議な魅力に惹かれ、彼女を心から大切にします。リュシアスと関わることでサラは怒涛の運命へと否応なく巻き込まれていくことになるのですが、サラはどのような目に遭わされても、リュシアスと出会ったことを全く後悔しません。サラにとって、リュシアスは必要不可欠なポジションの人で、「あの人がいたからこそ私は生きていける」という恋愛感情とは別種の、決して揺るがない絆によって結びついていたのです。そしてその絆は、死によって二人の運命が分かつまで二人を繋げていたのでした――。