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2024/11/22 03:42 |
続きが気になるのでいつかは読んでみたいのだが。
今日は『月の系譜』について語りたいと思います。だいぶ前に読んだ小説なので、内容はだいぶうろ覚えですが。

主人公は、山吹泉という名の少女。この名前、気に入っています。「黄泉」をイメージしたもので、格好良いですよね。

平凡な、けれどその平凡さに厭きている女子高生の泉。そんな彼女が通う高校に、あるとき榊という音楽教師がやって来ます。美形で、生徒間での人気が高い榊ですが、泉は榊に対して何故か嫌悪感を抱きます。そして榊自身も、何かと泉を挑発します。榊への憎しみを募らせていく泉ですが、しだいに自分の中の変化に気付いていくことに。そしてあるとき、榊は真の姿を現します。頭に角が生えた異形の存在「鬼」――その榊から「常世姫」と呼ばれ、胸に打ち込まれた楔を除かれ、泉は遂に自分が人間でないことを思い出します。けれど、彼女が取り戻したのは記憶のほんの一部。泉は愛する家族や友人と別れ、自分に関する彼らの記憶を消し去り、榊と共に平凡だった日常を去ります。「常世姫」としての記憶を取り戻す為、そして大切な目的を果たす為に。

――という感じかな。物語の内容は。
榊から「姫様」と呼ばれる存在であるものの、泉の正体である「常世姫」が一体何なのか、泉自身にも分かりません。しかも、榊から敬われる存在でありながら、榊は何かと泉を挑発したり、苛立たせたりします。榊が求めているのはあくまで泉の内に眠る「常世姫」であって、人間としてのしがらみに縛られた「山吹泉」ではないから…。泉と榊とのやりとりは、主従関係でありながら常に空気が張り詰めていて、緊張感が漂います。榊を憎む泉、泉の怒りをわざと増幅させる榊。けれど泉にとって榊の存在は大切なもので、彼なくしては本懐を遂げられない。そして榊にとってもまた、自分の望みを叶えられるのは泉ただ一人だからこそ彼女の為に働く。そういう、愛情とは別種の絆によって結ばれた奇妙な主従関係の二人です。泉と榊は。
物語が進むにつれ、泉はかつての自分・常世姫が失った力と記憶を取り戻し、離散したかつての従者達とも再契約していきます。新たに仲間として加わった付喪神の乙姫は常世姫だけでなく人間としての泉のことも慕っていて、だからこそ泉自身も乙姫には絶大なる信頼を寄せます。続いて従者となった鬼の阿夫利は泉とは友情で結ばれ、さらに人間としての泉に恋をする。人の身でありながら唯一泉の従者として認められた真澄は、常世姫の人間くささに戸惑いつつも忠義を尽くし、泉自身もそのような彼を結構気に入っている――これら三人の従者に比べ、一の従者である筈の榊との関係に変化はなく、泉は相変わらず毛嫌いしているようです。嫌われ者だな、榊は。

乙姫は、市松人形に宿っています。パッと見た感じでは、人形が動いたり喋ったりしているので不気味ですが、乙姫は泉に対して従順で、甘やかしすぎるところもあるので、凄く健気で可愛い。人形なのに妙に人間くさくて(っていうか一応神ってことになるのかな…)、泉に感情移入している所為か、榊に対しても厳しい態度をとります。そこがまた良い。乙姫は、本当に泉のことが大事なんだなぁーって思います。

阿夫利はかなり格好良い。その正体は人間の魂を喰らう鬼で、喰らった人間の身体を自分のものとする為、外見は普通の人間。性格も、とても人間くさくて、陽気で、人懐こい。人間に感情移入していて、本当は凄く優しい鬼だと思います。その為か、人間としての泉に対しては、榊がどうも毛嫌いしているようなのに対し、阿夫利は好意を寄せています。従者というよりむしろ良き友人といった感じです。主従関係であると同時に友情という絆によって結ばれていますね。そして友人として接するうちに、やがて阿夫利は人間としての泉に恋をする。でも常世姫としての力と記憶を取り戻す度に、人間の泉は消えていき、常世姫としての人格が強くなっていく――その様子をすぐ間近で見ながら、阿夫利は何を考えていたのか。愛する人の喪失をどうすることもできない苦しみってヤツですか。なんか自分で書いていて照れくさいな。

真澄さんも結構好きだぁー。どれほど完璧っぽい人間でも、やはり常世姫の前ではただの人間に過ぎない。泉と真澄さんのやりとりを見ていたら、どうしても人間としての限界を感じさせられてしまう。それでも真澄さんは自らの意志で泉に従うことを決意し、泉もまた彼のそのような決意を認めた。榊や乙姫、阿夫利との主従関係とは違う、凄く新鮮な関係だと思います、泉と真澄さんは。真澄さんのような、いかにも完璧に近そうな人が、異形の者達を目の前にして戸惑う様は、結構可愛いです。

榊も好きなんです。常世姫の忠実な従者で、でも泉には厳しい。他の従者達とは違って一切私欲を見せない、けれど彼が常世姫に従う理由は、自分自身の望みを叶える為。意外と健気なところがあって、でも全く感情を表に表さないところが、さすがというか…。未だに実体を把握しきれていないキャラなんだけど、彼が少なくとも泉より劣った存在だということ、常世姫には決して逆らわないということは分かる。常に緊迫しているけれど揺らぐことのない泉と榊の関係は結構好きです。


『月の系譜』シリーズは完結したってことになるのかな。結局泉の常世姫としての完全なる覚醒と阿夫利の離脱(常世姫の裏切りと泉の消失が原因)で、物語は終わりました。続いて始まったのが、『櫻の系譜』シリーズ。でもこれは、一巻の『夢弦の響』しか読んでいません。私は異形の者サイドのお話の方が好きだし、どうも『櫻の系譜』の主人公二人はBLっぽいような雰囲気なので、ちょっぴり拒否反応…; でもいつか読みたいです…でないと結末が分からないし…それほどBL的要素が濃厚という感じではないし(ただ友情が濃すぎるという感じがするだけ)…。
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2006/11/16 23:28 | Comments(0) | TrackBack() | その他(小説)

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